大判例

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東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)123号 判決

原告

豊丸貞光

外三名

右代理人

小谷野三郎

外三名

被告

郵政大臣

井出一太郎

被告

熊本郵政局長

船津茂

右被告指定代理人

松崎康夫

外四名

主文

壱 被告郵政大臣が昭和三七年一月三〇日原告豊丸貞光に対してなした免職

被告熊本郵政局長が同日原告隈元栄之助に対してなした停職一年、同安楽長信に対してなした停職六月(但し後に人事院判定により停職三月に修正)、同松永義春に対してなした停職三月(但し後に人事院判定により停職一月に修正)の各懲戒処分は取消す。

弐 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実〈一部省略〉

第一 当事者双方の求める判決〈中略〉

第二 原告らの主張

一 懲戒処分の存在〈省略〉

二 違法事由(その一)―懲戒処分

理由の不存在

(一) 事実上の主張―懲戒処分の構成要件事実の不存在〈省略〉

(二) 法律上の主張―争議行為の懲戒処分構成要件非該当

原告らの行為は憲法上保障された争議行為であるからこれに対し懲戒処分をなし得ない。

これを詳述すれば次のとおりである。

1 憲法二八条は勤労者の団結権および団体交渉権を保障する。郵政労働者もこの保障を受ける勤労者である。公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)一七条が合憲か否かはさておき、仮に合憲であるとしても、同条にいう「同盟罷業その他業務の正常な運営を阻害する行為」とは、労働基本権保障の見地から狭く解すべく、国民生活に重大な影響を及ぼすものに限られるのである。

この意味において同条に該当する行為をした者に対しても同法一八条にいう解雇の措置がとられうるにとどまり、国家公務員法(以下国公法という。)八二条所定の懲戒処分はなし得ない。また公労法一七条に該当しない程度の争議行為は憲法二八条労働組合法(以下労組法という。)により適法とされ、その行為者に対し右懲戒処分をなし得ないことは勿論である。

原告らの右行為はいずれも公労法一七条に該当しない争議行為であるから原告らに対し懲戒処分をなし得ない。

2 かりに公労法一七条に該当しない争議行為中労組法条一七号にいう正当性を有するもののみが憲法および労組法適法とされると解すべきであるとしても、原告らの行為はすべてかような正当性を有し、懲戒処分の対象となり得ない。この点は後記三において詳述する。

3 さて憲法、労組法上適法とされない行為について、はじめて国公法八二条所定の各構成要件のいずれかに該当するかが吟味されなければならない。

同法八二条一号にいう国公法違反行為についてみると、問題となるのは同法九六条、九八条一項、九九条、一〇一条である。しかしこれらの規定は集団的労働関係の次元では適用をみない。仮に適用があるとしても、勤務時間中五分や一〇分程度の短時間私用に費すことまで同法九六条、一〇一条に違反し懲戒の対象となるとは考えられないし、従つて労働基本権の行使にごく短時間を費すことも同様であると解すべきである。職務上の問題について労働者の主張を明らかにすることに至つては、むしろ職務に専念したともいいうる。同法九八条一項にいう上司の職務上の命令に従うべきであるとの点についても、そもそも原告らは都城局長等の違法な命令に従う義務を負わず、また適法な命令への服従を若干遅らせたからといつて同条に該当するともいえない。

争議行為は同法九九条にいう信用失墜行為とはなり得ない。

同法八二条二号の職務上の義務違反行為についても右と同様である。

同法八二条三号にいう非行についてみると、労働者の争議行為が非行すなわち倫理的道徳的非難に値する行為であるとは考えられない。

従つて原告らの行為はこの点でも懲戒処分の構成要件に該当しない。

三 違法事由(その二)―不当労働行為〈省略〉

四 違法事由(その三)―懲戒権の濫用〈省略〉

第三 被告らの主張

一 認否〈省略〉

二 懲戒処分構成要件該当性についての事実上の主張〈省略〉

三 懲戒処分構成要件該当性についての法律上の主張

(一) 原告らの右行為に対する法令の適用

原告らの右行為中、原告豊丸の(2)(4)、同隈元の(4)(5)(6)、同安楽の(1)、同松永の(3)(4)は国公法八二条各号に、同豊丸の(7)は同条一、二号に、その余の行為は同条一、三号に該当する。

よつて情状を考慮すれば原告らに対する本件処分は違法でなく、まことに相当である。

(二) 争議行為と懲戒処分との関係

原告らの主張に対し次のように反論する。

1 公労法一七条違反行為に対する懲戒

(1) 公労法一七条は、同盟罷業、怠業その他の争議行為、またはこれらの争議行為を共謀し、そそのかし、もしくはあおる行為を禁止しているのであるが、この禁止に違反した五現業の国家公務員に対しては、国公法八二条による懲戒処分が行なわれている。

右の懲戒処分は、次のような適条によつて行なわれているのが一般である。

(ⅰ) 公労法一七条違反行為は、国公法九八条一項の法令順守義務に違反し、これは国公法八二条一号(国公法違反)に該当し、同時に同条三号の国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行に該当する。

(ⅱ) 公労法一七条違反行為は、国公法九九条の信用失墜行為禁止に違反し、これは国公法八二条一号に該当し、同時に同条三号に該当する。

(ⅲ) 公労法一七条違反の争議行為は、国公法一〇一条一項の業務専念義務に違反し、これは国公法八二条一号に該当し、同時に同条二号(職務上の義務違反、職務を怠つた場合)、三号に該当する。

(2) 五現業の国家公務員に対し国公法の適用がある以上(ただし公労法四〇条一項により一部規定の適用が除外されている。)、公労法一七条違反行為に対し国公法八二条による懲戒処分をなしうることは、きわめて当然のことと解されるのであるが、このような懲戒処分に対し、原告らはその法律上の根拠を争つている。

原告らの主張の根拠は、争議行為一般について、とくに違法争議行為に対し懲戒処分は許されないとする観点からの批判と、公労法一七条違反の本質からの批判とにあろう。

そこでこれらの批判に対する被告らの見解を述べることにする。

2 違法争議行為と懲戒

(1) 懲戒を否定する見解の論拠

争議行為一般について、違法争議行為に対する懲戒を否定する見解が主張する論拠は、大別してつぎの二つである、ただし、二つの論拠は相互に関連し、重なり合つており、明確に区別することは困難である。

第一の論拠は、争議行為は労働者の団結体である労働組合自体の行為であり、しかも争議行為は多数組合員の集団的、共同的な活動であることを本質とする行為であるから、違法な争議行為が行なわれた場合にも、その責任は団体である労働組合が負担すべきであつて、争議行為を個々の参加者の行為に分解して、個別的労働関係の場において、個々の参加者の責任を追求することは許されない、ということである。

第二の論拠は、懲戒は通常の企業秩序が維持されている場合に、使用者の労務指揮権の行使を阻害する労働者の個別的な服務規律違反に対する制裁であるのに対し、争議行為は労働者が企業秩序の拘束から集団的に離脱し、使用者の労務指揮権を排除することを目的とする行為であるから、争議行為の場合は、懲戒権が行使される場とは次元を異にし、争議行為を組成する個々の労働者の行為に対し、懲戒をすることを許されない、ということである。

(2) 第一の論拠に対する批判

(ⅰ) 争議行為が労働者の団結体である労働組合の行為であること、争議行為が多数組合員の集団的活動であることは、懲戒を否定する見解の主張するとおりであるが、そのことから、ただちに個々の参加者が違法争議行為の責任を負担しないという結論を導き出すわけにはいかない。

一般に法人その他の団体の違法行為については、損害賠償責任と刑事責任が考えられるのであるが損害賠償責任については、団体と執行機関である個人の双方が責任を負うものとされており(民法四四条参照)、刑事責任については原則として個人が責任を負い、団体が責任を負うのは法律に特別の規定がある場合にかぎられる。したがつて、団体が違法行為を行なつた場合には、その違法行為が団体の行為として法的評価を受けると同時に、違法行為を行なつた執行機関個人の行為としても法的評価を受けるのである。その意味で、執行機関である個人の人格は、機関資格に完全に埋没するのではなく、団体と別な人格として存在するのである。

団体の活動が被用者によつて行なわれる場合には、被用者の行為がそのまま団体自身の行為とみられるのではなく、あくまでも、被用者個人の行為であることはいうまでもない。

右に述べた、一般の法人、団体の違法行為についての理論は、労働組合の違法行為、とくに労働組合の違法な争議行為の場合にも、あてはまるものと解すべきである。

このことは、刑事責任については異論のないところと思われるが、損害賠償責任の場合にも、労働組合の違法争議行為についてのみ別異に解する理由はなく、実定法もこのことを当然のこととしているものと解される。

すなわち、労組法八条は、「使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない」と規定し、その反面として、正当ならざる争議行為の場合には、組合に対する損害害賠償請求とは別に、組合員個人に対する損害賠償請求を明らかに予想しており、また同法一二条は民法四四条(法人の不法行為能力、理事その他の損害賠償責任)を準用して労働組合の機関個人の損害賠償責任を認めているのである。

争議行為の集団活動たる本質をいかに強調してみても、そのことのみによつて、違法な争議を行なつた争議参加者の行為が団体の行為としての面しか有しないことを理由づけることは困難である。もつとも争議行為の集団活動たる本質から見て、参加組合員の行為を、一般の団体の場合の被用者の行為と同列に見るべきものかどうかについては疑問の余地があり、組合員の行為を、組合構成員としての主体的活動として評価し、執行機関の行為に準じて取り扱うことも可能であろう。しかし、執行機関の行為そのものが、違法な争議行為の場合には、組合の行為たる面とは別に、個人の行為として法的評価を受けるのであるから、組合員の行為を執行機関の行為に準じて取り扱うことが、組合員個人の損害賠償責任を否定する理由とはなりえないことは明らかである。

(ⅱ) このように、違法な争議行為の場合に、損害賠償責任(不法行為と債務不履行の両者を含む。)の分野においては、執行機関、参加組合員の行為が個人の行為として評価されるものである以上、懲戒責任の関係においても、これを別異に解すべき理由はないといえよう。また、個人に対する懲戒を認めることは政策的に見ても妥当である。

損害賠償請求は、損害の填補を本質とするものであるから、労働組合に対してのみ請求を認めることも、あるいは政策的には可能であるかも知れない(この場合も損害賠償債務の負担は、最終的には組合員の負担となる。)。しかし懲戒は、刑事責任と同じように制裁を本質とするものであるから、自然人たる人間に課するのが原則であり、また使用者との間に雇用関係の存在しない労働組合に対する懲戒は本来ありえないのである。もし組合活動として行ないさえすれば、あるいは争議行為として行ないさえすれば、組合員に対する懲戒が不可能であるとなると、組合活動の名にかくれて、違法行為を敢えてするといつた傾向を助長しないとはかぎらないのである。したがつて政策論としても、違法な争議行為について懲戒責任を否定する見解は不当である。

(ⅲ) 最後に第一の論拠は、個別的労働関係と集団的労働関係をしゆん別する見解に立つものであるが、このような見解も、違法争議参加者個人の責任を否定する理由として十分でない。個々の労働者は、使用者と労働契約を締結することによつて、使用者との間に労働契約関係にたち、他方労働組合に加入することにより労働組合の団体的統制に服することになるが、この両者の法律関係は別個独立のものとして併存し、その間に優劣の関係はない。したがつて争議行為が、労働組合の団体行動として展開されるものであるからといつて、争議行為によつて、個々の労働者と使用者との間の労働契約関係が消滅するわけではなく、また労働組合は、その構成員である労働者を、使用者の意思を無視して企業秩序から自由に離脱せしめることができるわけのものでもない。ただ正当な争議行為の場合には、労働者は債務不履行責任を免責され、また争議行為を理由とする懲戒が不当労働行為になる、という意味において、個別的労働関係の場における、債務不履行、企業秩序違反の違法性が阻却されるというにすぎないのである。しかし違法な争議の場合まで、労働契約関係の義務違反が免責されるとする法的根拠は存在しない。むしろ違法な争議の場合には、組合員は組合の統制に従う義務を負担しないのであり、違法な争議指令に従わなかつたからといつて、組合の統制違反の責を問われるべきものではないというべきであろう。

集団的労働関係を理由に、懲戒を否定する見解は、結局、個別的労働契約関係にもとづく労働者の義務と、組合の統制とが矛盾衝突する場合に、組合の統制を一方的に優位に置くものにほかならないのであつて、とうてい採用することのできないものである。

以上のように、第一の論拠は理由がない。

(3) 第二の証拠に対する批判

(ⅰ) 懲戒が、一般的には、企業秩序が維持されている場合に、個別的な企業秩序違反に対する制裁として課されるものであることは、そのとおりであるが、これは企業秩序が維持されているのが通常であるからにほかならない。

また争議行為は、企業秩序から集団的に離脱し、労務指揮権を排除することを目的とするものであるから、懲戒権が及ばないとする見解も、懲戒を否定する理由としては十分でない。

すでに述べたように、争議行為が労働法上の団体行動として保護されるのは、正当な争議行為の場合にかぎられるのであり、違法な争議の場合にまで労働法上の保護がおよぶのでない。したがつて労働契約関係を維持しながら、企業秩序から離脱し、労務指揮権を排除する行為が、労働契約関係にもとづく責任を問われないのは、正当な争議行為の場合だけであり、違法な争議行為においては、労働法上の保護が及ばないのであるから、争議行為は個別的な企業秩序違反行為の集積にほかならないのである。

第二の論拠が、争議行為によつて企業秩序から離脱し、労務指揮権を排除するということを、あたかも労働契約関係そのものから離脱するのと同様に考えているとすれば、明らかに誤りであり、民事上の免責、不当労働行為制度による保護の存在を除けば、争議行為による集団的な企業秩序の侵害と、個別的な企業秩序違反との間には、何ら質的な相違、次元の相違は存在しないのである。

結局第二の論拠も、つきつめていけば個別的労働関係と集団的労働関係の相互関係の理解にかかつており、本質的には第一の論拠と異なるところはないということができよう。

(ⅱ) 第二の論拠は、しばしば、就業規則は平常時における個別的労働関係の規制を目的とするものであるから、争議行為には適用されない、という形で表現されている。この場合に、平常時という就業規則の適用のわくに、独立の法的意義を見出すことは困難である。なぜならば、争議行為が平常時と異なるのは、企業秩序違反が団体行動として集団的に行なわれるところにあるのであるから、個別的労働関係の規制という適用のわくから区別して、とくに平常時というわくを議論する必要はないからである。

(4) 懲戒を否定する見解の不合理性

懲戒を否定する見解が、違法争議の場合に、組合の損害賠償責任を認めながら、参加者個人の責任を否定することは、すでに述べたように、近代私法の原理と矛盾するものであるが、さらに右の見解が、違法争議行為が刑事責任を生ずるような場合には、行為者個人の民事責任をも認めようとしているのは、首尾一貫しないものといわなければならない。なぜならば、前述した二つの論拠は、刑事罰を課すべき違法性が存在する場合にかぎつて民事責任を認めるという取扱いに対し、何らの合理的根拠を提供していないからである。

以上述べたように、違法争議行為一般について、懲戒を否定する見解は、恣意的、独断的であり、かつ実定法に反する政策論であつて、とうてい採用することのできないものである(神奈川地方労働委員会命令昭和二五年九月二二日、命令集一九一頁、福岡地方裁判所判決昭和三二年七月二〇日(三井化学三池染料事件)、労民集八巻四号四三九頁参照)。

3 公労法一七条違反行為と企業秩序

(1) 公労法一七条違反行為に対する懲戒を否定する見解の論拠

公労法一七条違反行為に対し懲戒を否定する見解は、その論拠として、同条違反の争議行為は、ただちに違法な争議行為になるのではなく、同法一八条の解雇も通常解雇であつて、争議行為を理由に解雇しても不当労働行為にはならないというにすぎず、また労組法八条の適用が排除されている(公労法三条一項)ので、損害賠償の要件を充たせば、損害賠償請求ができるというにすぎないのであると述べ、さらに同法一八条の解雇は懲戒解雇ではないから、解雇するかしないかのいずれかであり、それ以外の停職、減給、戒告などの懲戒処分をすることはできないと述べている。

(2) 懲戒を否定する見解に対する批判

(ⅰ) 公労法一八条の解雇が懲戒解雇の性格を有するか否かについては、学説、判例の見等が分れているが、(懲戒解雇の性格を肯定するものとして、慶谷淑夫「公労法論」一六八頁、中西実「条解改正公労法」一五一、一五二頁、法制局意見昭和二八年三月四日法制局一発第二四号などがある。)、実質的に見て、制裁としての性格を有するものであることは否定できないと思う。もつとも同条の解雇が懲戒的性格を有しないとしても、そのことからただちに同法一七条違反行為に対し懲戒ができないという結論を導くのは誤りであり、現に同法一八条の解雇を通常解雇であるとしながら、同法一七条違反行為に対する懲戒を認める見解も存在するのである。したがつて、同法一七条違反行為に対し懲戒を認めるか否かは、同条の保護法益、同条違反行為の本質をどう見るかにかかつているといえよう。

(ⅱ) 懲戒を否定する見解は、同法一七条による争議行為禁止は、公衆の利益を保護するためのものであつて、使用者の利益の保護、企業秩序の維持を目的とするものではないから、同条に違反する争議行為は、ただちに企業秩序を乱したことにはならない、と解するもののようである。

しかし、公衆の利益の保護は、業務の正常な運営、企業秩序の維持を離れては考えられないのであり、そうであればこそ、同条は、公衆の利益を保護するために、業務の正常な運営を阻害する行為、企業秩序から全部的または部分的に離脱する行為である争議行為を禁止しているのである。したがつて、同条の立法目的から、ただちに同条を企業秩序とは無関係な法規範として把握するのは誤りであるといわなければならない。

(ⅲ) 右に述べたように、公労法一七条は、公衆の利益、公共の福祉の増進、擁護のために、争議行為を禁止し、業務の正常な運営、企業秩序の維持をはかつているのであるから、企業経営者は、業務の正常な運営、企業秩序の維持を確保するために最大の努力を要請されているのであり、他方郵政職員は、職務を遂行するについて法令を順守する義務を有するのであるから(国公法九八条一項)、業務の正常な運営を阻害することなく職務を遂行すべき義務を負担しているのである。

郵政職員は右のごとき義務を負担しており、郵政職員の争議行為については労働法上の保護も存在しないのであるから、争議行為を行なうことにより、右の義務に違反した場合に、国公法八二条による懲戒をなしうることは当然である(慶谷「公労法論」一六九頁)。

常識的に考えても、公労法一八条による解雇に対し、労働法上の保護が排除されているのに制裁としては解雇よりはるかに軽い停職、減給、戒告が不当労働行為制度の救済の対象になるとするのは明らかに不合理であり、また労組法八条の適用除外により、損害賠償責任が認められていることと比較しても不均衡である。

(ⅳ) この問題に関する最近の判例の見解を見るに、最高裁判所昭和四一年一〇月二六日判決(中郵事件、刑集二〇巻八号九〇一頁)は、「この観点から公労法一七条一項の定める争議行為の禁止の違反に対する制裁を見るに、公労法一八条は、同一七条に違反する行為をした職員は解雇されると規定し、同三条は、公共企業体等の職員に関する労働関係について、労組法の多くの規定を適用することとしながら、労働組合または組合員の損害賠償責任に関する労組法八条の規定をとくに除外するとしている。争議行為禁止違反が違法であるというのは、これらの民事責任を免れないとの意味においてである。」と判示している。同判決は、公労法一八条の解雇を制裁として把握し、また同判決が、争議行為禁止違反者に対する制裁という見地から刑事制裁と民事上の制裁を区別していることは、判決全体の論旨から明らかであるから、右引用の判示部分の民事責任とは、刑事制裁に対比されるべき民事上の制裁としての民事責任の意であつて、懲戒責任を含むものと解されるのである。

さらに最高裁判所昭和四三年一二月二四日判決(千代田丸事件、民集二二巻一三号三〇五〇頁)は、「公労法一八条は、同法一七条の規定に違反する行為をした職員は、『解雇されるものとする』と規定している。しかし同条の趣旨とするところは、右の違反行為をした職員は、当然にその地位を失なうとか、一律に必ず解雇されるべきであるというのではなく、例えば日本電信電話公社法三一条、三三条等の定める職員の身分保障に関する規定にかかわらず、解雇することができるというにあり、解雇するかどうか、その他どのような措置をするかは、職員のした違反行為の態様・程度に応じ、公社の合理的な裁量に委ねる趣旨と解するのが相当である。」と判示している。右判決の「その他どのような措置……」とあるのは、公労法一七条違反行為で解雇にまではいたらない程度のものに対し、どのような措置をするかは公社の裁量に委ねられているとする趣旨であり、その他の措置としては懲戒以外のものは考えられない。したがつて、右判決は公労法一七条違反行為に対する懲戒を容認しているものと解されるのである。

右千代田丸事件判決の理解について、高松高等裁判所昭和四五年一月二二日判決(労民集二一巻一号三七頁)は、「又一審原告等は、公労法一七条違反の争議行為に対する制裁は同法一八条所定の解雇に限られるべきであると主張するのであるが、公労法一八条の趣旨は同法一七条違反の争議行為をした者に対し、国鉄法二九条、三一条等の職員の身分保障に関する規定に拘らず解雇することができるというにあるのであつて、公労法一八条によつて解雇するか否か、又は国鉄法三一条による措置をとるかは、職員のした違法行為の態様、程度に応じ合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである」と判示して、千代田丸事件上告審判決を引用しているのである。右高松高判のいう国鉄法三一条は懲戒の規定であるから、同条による措置とは懲戒のことであり、したがつて、同判決は、千代田丸事件上告審判決のいうその他の措置を懲戒として理解し、公労法一七条違反に対する懲戒を肯定したのである(同事件の一審判決である高松地方裁判所昭和四一年五月三一日判決、労民集一七巻三号七二六頁も懲戒を肯定している。)

そのほか下級審判決では、東京地方裁判所昭和四三年九月三〇日判決(訟務月報一四巻一〇号一一七一頁)が、公労法一七条違反、国公法九八条一項違反を理由とする国公法八二条による懲戒免職処分を適法、有効とし、東京地方裁判所昭和四三年一二月二四日判決(石神井郵便局事件、昭和三五年(行)第六九号、判例集未登載)が、公労法一七条違反の争議行為に対し、国公法八二条の適用があることを判示し、また新潟地方裁判所昭和四四年一一月二五日判決(労民集二〇巻六号一五五三頁)も、公労法一七条違反の争議に対する懲戒を容認しているものと考えられるのである(ただしこの事件は直接には一八条解雇が問題となつている。)。

最後に最高裁判所昭和四四年四月二日判決(都教組事件、刑集二三巻五号三〇五頁)が、地方公務員法三七条一項違反の争議行為に対し懲戒処分をなしうるものとしていることに注意すべきであろう。

4 結論

以上述べたように、公労法一七条違反行為に対する懲戒は可能であり、これを否定する見解は誤りであると考える。

四 不当労働行為の主張に対する反論〈省略〉

五 懲戒権濫用の主張に対する反論〈省略〉

第四 証拠〈省略〉

理由

(前註)〈省略〉

第一懲戒処分の存在

原告らがいずれも昭和三六年以前から一般職の国家公務員として、郵政省熊本郵政局管内都城郵便局郵便課に勤務して公労法二条一項二号イ所定の国の営む郵便事業に従事していたところ、被告郵政大臣が昭和三七年一月三〇日原告豊丸に対し免職、被告熊本郵政局長が同日原告隈元に対し停職一年、原告安楽に対し停職六月、原告松永に対し停職三月の各懲戒処分(以下これを本件処分という。)をしたこと、原告らが人事院に対し本件処分の審査請求を申し立てた結果、人事院は昭和三九年一〇月三日、原告豊丸、同隈元に対する右処分を承認し、同安楽に対する右処分を停職三月に、同松永に対する右処分を停職一月に修正する旨の判定をしたことはいずれも当事者間に争いがない(以下争いがないという。)。

第二懲戒処分に至る事実上の経過

一郵政当局と全逓との団体交渉および争議行為の企画指令

(一)  郵便遅配対策等に関する郵政当局と全逓中央本部との昭和三六年夏における交渉および争議指令(指令第第四号)

〈証拠〉をあわせれば、次の事実を認めることができる。

「1 昭和三六年当時全国各地において郵便物の遅配が激化し、郵政当局および右郵便事業を営む企業に雇傭される職員(以下郵政職員という)の加入する全逓はそれぞれの立場からその対策に腐心していた。

2 全逓中央本部(中央執行委員会をもつて運営されている。)は同年春松江市で開催された全国大会で決定を見た方針に従い、郵便遅配解消のため同年の年末闘争の目標を郵政職員の大幅増員に求め、かつそれまでの間は郵政当局と(1)いわゆる能体費、(2)同年春なされた公労委の仲裁決定の配分、(3)国鉄近代化計画にもとづく郵便関係の合理化等につき、団体交渉をとげたが、郵政当局との間に意見の一致をみるに至らなかつた。

3 同中央本部は同年七月二九日全逓の各地方本部、地区本部、支部等各級機関に対し、指令第四号をもつて、右交渉事項につき全逓の主張貫徹のため同年八月一日以降無期限に

(1) 諸休暇、休憩、休息を完全に消化し、平常能率による業務を確立し、各種業務取扱い規定を遵守すること、

(2) 各郵政局による郵便遅配解消対策と称する郵便業務運行特別考査に対して監視態勢その他充分な態勢を確立すること

等を指令した。

4 同中央本部は同年七月三一日地方本部、地区本部に対し、全逓企第一五号という指導文書をもつて、具体的な争議戦術を示し、その中で郵便物の滞貨を生ずるような結果を生じさせるため、

(1) 右指令にいう平常能率とは郵政省の定めた定員算定の基準となる労働能率を指す。組合員はこの能率により、かつ法律、規則、規定に完全に従つて業務を遂行すること、

(2) 年次有給休暇の請求に伴い他の者の担当業務変更の業務命令が発せられた場合、直ちにその撤回を求める団体交渉を行ないこの間業務命令に服さないが、団体交渉によつても撤回不可能のときは業務命令に服すること、

(3) 休憩休息時間を完全に消化すること、とくに勤務時間の終わりにおかれた一五分の休息時間には帰宅すること。

等を指示した。」

(二)  都城局における郵便遅配の状況

〈証拠〉によれば、都城局では郵便物の滞留が他の郵便局に比して著しく多く(滞留のあつたことは争いがない。)、昭和三六年四月中一日約一一〇〇通から約一〇〇〇〇通に及び、以後若干の増減を経て同年八月にほ最大一日約二〇〇〇〇通に達し、配達地区によつては三日ないし五日の遅配をみるに至つたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(三)  第一次特別考査

1 第一次特別考査の実施

〈証拠〉によれば、熊本郵政局は当時都城局を含め郵便遅配の著しい郵便局に対し遅配の原因を究明しこれを除去するという目的をもつて、郵便業務運行特別考査を実施し、都城局については九月一一日から同月一四日まで熊本郵政監察局第二部長今泉啓介ほか六名の郵政監察官をして都城局の郵便業務につき人員、施設、能率等各般にわたり調査をとげさせた結果(これを第一次特別考査という。これを右人員をもつて実施したことは争いがない。)、施設の不備、管理者の指導性欠如、担務指定表不適当等改善すべき事項を発見し、その是正を指示したことが認められる(このほか都城局の労働協約、労働慣行を違法としてその破棄を指示したことは次段で認定する。)。

2 都城局における労働慣行

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

「当時都城局長と都北支部(同支部が宮崎県都城市および北諸県郡所在の郵便局職員中全逓加入の者約三七〇名をもつて構成され、全逓宮崎地区本部に所属していたことは争いがない。)との間には幾多の労働協約、労働慣行が存在し、このうちには郵政大臣と全逓中央本部との間で締結された労働協約と異なるものもあつた。

例をあげれば、郵政大臣と全逓中央本部との間で締結された『勤務時間および週休日等に関する協約』付属覚書によると、

『所属長は所属職員に対する、勤務の種類ならびに始業時刻および終業時刻、休憩時間を設ける方法、休息時間を設ける方法、週休日を設ける方法、勤務の種類の組合せ方法について服務表を定めこれを関係職員に周知するものとし、その変更の場合、その実施予定日の一週間前までにこれを関係職員に周知するものとする(一八項)。

所属長は、各職員について、四週間を単位として、その期間における各日の勤務の種類、始業時刻および終業時刻ならびに週休日を定め(以下これを勤務の指定という。)、これを当該期間の開始日の一週間前までに関係職員に周知するものとする(一九項)。

職員についてあらかじめ定めた各日の勤務の指定は所属長が一定の事由があると認めたときこれを変更することができる(二一項)。

右勤務の指定の変更はその直前の勤務日における当該職員の勤務終了時までに当該職員に対し、その旨およびその後の予定変更をもあわせ通知するものとする。ただし突発的事由あるときはこの限りでない(二二項)。』

と定められているにとどまり、かつ所属長が各職員に対し右のようにして定められた勤務日における担当業務(外務員についていえば配達地区、配達の種類主等)の指定をするにつき(以下これを担務の認定という。)その時期方法に関し何らの定めもなかつた。

ところが都城局における労働慣行中には、服務表の作成の場台事前に組合と協議するとか、右勤務の指定変更、週休日振替の場合都北支部都城局郵便課分会長と相談して行なうとか、担務の指定は四週間分をまとめて行ない、これをその期間の開始日の一週間前までに通知し、その変更の場合、右分会長および当該職員の了解を得たのちこれを実施するとかいうものが存在した。」

右の事実を認めることができる。〈証拠判断省略〉

3 右労働慣行の破棄通告

〈証拠〉によれば、熊本郵政局長は第一次特別考査の結果にもとづき前記労働協約、労働慣行を破棄させることが都城局の郵便遅配解消等の郵便業務改善のため必要であると判断し、都城局長にその旨指示したので、同局長は一〇月一九日口頭で、同月二三日文書で都北支部あて、「都城局における労働慣行のうち四〇件(うち都城局長と都北支部長との間で文書に記載調印したもの四件、文書の交換、文書による回答又は確認にもとづくもの七件、その他二九件。このうちには前記服務表の作成等に関する慣行も含まれる。)は、郵便局長の権限外事項、又は公労法八条にいう管理運営事項に属する等、国公法、公労法、郵政大臣と全逓中央本部との間に締結された労働協約、郵政省就業規則に違反し無効である。」との前提に立つて、当事者はもはやこれらの慣行に拘束されない旨を通告したこと(以下これを破棄通告という。この通告をしたことは争いがない。)、都城局長は、右破棄通告により、例えば前示服務表作成につき組合と協議したり、勤務の指定変更について分会長と相談したり、担務指定を四週間分まとめてしたり、その変更について分会長および本人の了解を得なければならない等の拘束を免れたと解釈したことが認められる。

(四)  第二次特別考査

熊本郵政局が昭和三六年一〇月二四日から昭和三七年一月七日まで都城局に対し、郵便業務運行特別考査として郵便業務につき熊本郵政監察局第一部長池本清一ほか郵政監察官若干名、熊本郵政局、郵務部電気通信企画課長林乙也ほか同局人事部職員等延べ六〇〇名ないし七〇〇名(一日当り多いときで二五、六名、少いときで三名程度)をして職場規律の維持と管理体制強化との目的をもつて所要の指導調査を実施したこと(これを第二次特別考査という。)、その方法として都城局長又は所管課長をして作業手順等につき業務命令を文書又は口頭をもつて発出させ、配達区毎に郵便外務員の道順組立所要時間、出発時刻、帰局時刻、配達中の状況、配達通数と持戻り通数とを調査してその作業能率を測定し、業務命令発出に立ち合つてその遵守の有無を監視する等の措置をとつたことは争いがない。

(五)  郵便遅配対策等に関する郵政当局と全逓中央本部との昭和三六年秋における交渉および争議指令(指令第一〇号)

〈証拠〉によれば次の事実を認めることができる。

「1 全逓中央本部は昭和三六年一一月はじめころ年末闘争の目標として、

(1) 前記郵便遅配解消と労働軽減のための郵便事業従事職員定員の四〇、〇〇〇人増員、

(2) 全逓案による公労委仲裁裁定の完全実施、

(3) 郵便合理化の事前協議協約の獲得、

(4) 年末手当2.5か月分の獲得、

(5) 一方的労働指揮権の排除

等を実現すべき旨を定め、郵政当局とこの点につき交渉を重ねたが、容易に意見の一致を見なかつた。

2 同中央本部は同月一五日前記各級機関に対し、指令第一〇号をもつて、右交渉事項につき全逓の主張貫徹のため、

(1) 同月一八日から二二日までの同地区本部、支部は大幅増員による郵便遅配解消を目的とする総決起大会を開催すること、

(2) 同月一九日以降各級機関は労働基準法三六条による時間外労働休日労働に関する協定(以下三六協定という。)の締結を拒否すること、

(3) 各級機関は前記全逓企第一五号、指令第四号にもとづく平常能率の徹底、各種業務取扱い規定の遵守、休憩、休息、諸休暇の完全消化等の行動を確実に実践強化すること、

等を指示した。」

(六)  都城局労働慣行の破棄に関する都北支部交渉

〈証拠〉によれば、都北支部は前記破棄通告直後である一〇月二五日都城局長に対し「都城局の労働条件並びに労働慣行について」と題し右破棄通告に関し団体交渉の申入れをしたこと、右申入れ事項のうち前記服務表の作成をめぐる労働慣行の破棄に関する部分については、局長は郵政大臣から、都北支部長は全逓中央本部から、それぞれ交渉権限を委ねられていた交渉委員であつたこと、しかるに局長は庶務会計課長落合奈良春をして第二次特別考査のため混雑していること等を理由に同月二七日以降ならば団体交渉に応じる旨回答させたものの、結局右申入れに応じての団体交渉をしなかつたことが認められる。〈証拠判断省略〉

右の事実によれば、都北支部の右申入れ事項中少なくとも前記服務表の作成をめぐる労働慣行の破棄に関する部分は公労法八条所定の団体交渉事項というべきである。

(七)  都北支部における争議行為の企画

〈証拠〉によれば、都北支部は、前記全逓中央本部交渉事項および都北支部交渉事項についてその主張貫徹のため、前記全逓中央本部指令にもとづき同本部、九州地方本部、宮崎地区本部の指導のもとにおそくとも同年一〇月中闘争指導方針として「当局側の発する口頭業務命令は一切聞き流す。不当な業務命令に対しては直接又は組合を通じて抗議し撤回を求める。随時所属長に対し集団交渉を実施し特別考査の不当性を追及する。中央本部指令にもとづく平常能率で作業することを徹底する。毎日勤務終了後当日の行動の批判会を行ない統制ある行動のための討議を行なう。」等を定め、この方針に則り、その組合員である原告らをして特別考査実施中次のような行為に及ばせたことが認められる(都北支部が全逓の上部機関の指令指導にもとずき郵政当局側の労働慣行の破棄について、対策をたてたこと、原告らが組合員であることはいずれも争いがない。)。

(八)  原告らの組合役職

原告豊丸が昭和三六年九月以降都北支部執行委員、同豊丸が昭和三五年五月以降都城局郵便課分会長、同安楽が昭和三六年九月以降都北支部長、同松永が同年九月以降同支部書記長の役職にあつたことは争いがない。

二原告らの行為

(一)  原告豊丸

1 一〇月二四日

都城局郵便課長鶴賀正西が一〇月二四日午後一時二分ころ郵便課事務室において同課外務員吉田義広ほか六名に対し、「貴殿は一〇月二四日二号便の道順組立をしないで、配達未済郵便物の配達にただちに出発されたい。」旨の文書を交付して命令したところ、原告豊丸は同隈元、同松永ら全逓組合員約二〇名とともに同一時二〇分ころ課長に対し、「二号便を廃止してもよいという根拠を示せ。」と説明を求め、これに対し課長および都城局長がこもごも説明したことは争いがない。

〈証拠〉によれば、局長は郵便配達の三、四日のおくれを取り戻すには、まず当日の一号便の残りの配達を完了させることが必要であると考え、郵便集配運送計画規程によると、郵便局長は集配時刻と順路とを変更する権限を有する関係上、当日の二号便を廃止して、一号便の配達未了郵便物の配達を完了させようとして、右命令に及んだものであり、かつ局長および課長はその趣旨を説明したにかかわらず、右原告らは他の組合員の先頭に立つて約二〇分間にわたり、二号便の廃止は法的根拠がなく、利用者にその理由を説明できないと称して抗議をつづけ、そのため課長の同課職員に対する労務指揮権の行使を妨げたことを認めるに足りる。〈証拠判断省略〉

2 一〇月二六日

〈証拠〉をあわせれば、課長が同年一〇月二六日午前八時四〇分ころ郵便課事務室において遅配解消のため、原告豊丸を含む各外務員に対し、「本日分と昨日分との各道順組立未済郵便物を一しよに道順組立をして、それはそのままにしておき、昨日道順組立ずみの郵便物をもつて配達に出かけて下さい。」と口頭で命令したこと、他の者はこれに従つたが、原告豊丸だけは午前一〇時三〇分ころまでに本日分と昨日分との各道順組立未済郵便物を一しよに組立しおわりながら、右命令に反し昨日道順組立ずみの郵便物を持つて出発することなく、前者に後者を差しこんでいたこと(この差しこみをしたことは争いがない。)、課長は、原告豊丸をして前記命令どおり後者を持つて直ちに配達に出発せしめ、非常勤外務員をして当日午後前者を配達させるのが適切と考え、直ちに同原告に対し、「昨日道順組立ずみの郵便物を持つて直ちに配達に出て下さい」と口頭で命令した(右命令をしたことは争いがない。)こと、同原告は右命令を聞き流しつつ右差しこみ作業を続け、課長から一〇回以上右命令を口頭で反覆されてようやく同一一時ころ配達に出発するまで(右時刻に出発したことは争いがない。)右命令に従わなかつたことを認めるに足りる。〈証拠判断省略〉

3 一〇月二九日

〈証拠〉をあわせれば、課長が一〇月二九日午前八時三六分ころ郵便課事務室において当日勤務の同課外務員約二五、六名に対し、口頭をもつて、一〇月一日改正ずみの国鉄ダイヤの実施に伴なう必要な作業手順について指示し、ついで樋口兼泰ほか二名に対し、当日の勤務予定者が年次有給休暇等の請求をして欠務したことによる担務の変更を命じたこと、都城局においては従前担務の変更につき分会長および当該職員の了解をえたのちこれを実施するという労働慣行が存在し、右慣行は前記破棄通告の対象となつていたものゝ右担務の変更手続は右慣行と異つており、かつ樋口はかねて病弱の故をもつて配達の楽な市内平担地帯である五部の担務を命ぜられていたのに、当日にわかに配達の困難な市外山岳地帯である三部の担務を命ぜられたものであること、原告豊丸はかような見地から右担務の変更を不当と考え、居合わせた外務員二五、六名とともに課長に対し、「それはどこのことか。」「担務の変更はいつまでやるのか。」「貴様冗談いうな。余り勝手なことをして後悔するな。」などと数分間大声でののしつて課長のする業務命令の伝達を妨害したことをいずれも認めるに足りる(担務の変更を命ぜられたことを抗議したこととは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

4 一〇月三〇日

〈証拠〉をあわせれば、次の事実が認められる。

「課長は一〇月三〇日午前八時三五分ころ郵便課事務室において、当日勤務の同課外務員約二五、六名に対する作業方法に関する指示および同樋口兼泰、坂元勇に対する担務の変更の指示を口頭で伝達するため、『命令事項があるから集つて下さい』と告げてこれらの者を呼び集めた。

ところでその前前日外務員栗山吉則が勤務時間中胃痛を感じ病院に行くべく課長の許可を求めたところ、許可を得るまでに一〇分程待たされ、病院で受診中早急に帰局すべき旨の電話を受けたとの事実があり、前日外務員坂元洋は一時間の時間外勤務を命ぜられ頭痛を理由にこれを一旦断つたが、結局断りきれず三〇分だけ時間外勤務をとげたところ、なお気分が悪くなり医師の診断を求めた結果、二、三週間の休養を要する急性胃炎であるといわれたとの事実があつた。そのため原告豊丸は当日これを組合員に伝達しようと考え、右課長の呼び集めに応じて集合した組合員である職員に向い、『一昨日は栗山さんに強制労働をさせようとした。昨日坂元洋さんに超過勤務を強制した』といい、かつ第二次特別考査対策として、『郵政局係官や郵政監察官が変な行動をしたらよく顔や名前を覚えておくこと』と告げ、さらに、『仕事は平常どおりの能率でやつてくれ。今日午後四時二〇分から職場集会をやるからそのつもりでいてくれ』という趣旨の発言をし(右発言をしたことは争いがない。)、課長から右発言中八回にわたり、『豊丸さん。やめて下さい』と制止されたにもかかわらず、数分間にわたり右発言を強行し、もつて課長の前記指示の伝達を妨げた。」〈証拠判断省略〉

5 一〇月三一日

〈証拠〉をあわせれば、課長は一〇月二一日午前八時三五分ころ郵便課事務室において当日勤務すべき同課外務員約二五、六名(全逓組合員を含む。)に対し、当日の作業手順について指示を与え、かつ樋口兼泰に対し、当日の勤務予定者が年次有給休暇等を請求して欠務したことによる市内配達から市外配達への担務の変更を命じたこと、この命令に対し樋口が、「おればかりなぜ担務を変更されるのか。」と抗議したこと、原告豊丸は当日週休日であつたがその場に居合わせたので、右担務の変更手続きが、前記破棄通告の対象となつた労働慣行と異り、かつ樋口の健康状態を考慮しない不当な措置であると考え、同じくその場にいた原告隈元(原告豊丸と同じく当日は週休日であつて勤務を要しなかつた。以下単に(週休日)という。)同松永(週休日)、同安楽、樋口および右外務員らとともに課長に詰め寄り、「それでも現場の課長か。」「強制労働だ。その理由をいえ。」と発言し、課長から説明を受けても聞入れず、局長および課長からすぐ作業につくよう命令されても同八時四二分ころまで抗議をつづけ、その間課長の職務の遂行を妨げるとともに全逓組合員である右外務員らをして勤務を欠くに至らせたことを認めるに足りる(担務の変更を命じたこと、原告らがこれに対し抗議をしたことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

6 一一月一日

〈証拠〉をあわせれば、課長は一一月一日午前八時三五分ころ郵便課事務室において当日勤務の同課外務員二五、六名(全逓組合員を含む。)に対し「今日は特別に命令することはありませんからすぐ作業について下さい。」と命令したところ、原告豊丸は右外務員に向つて、「配達区分の誤区分郵便物は今迄担当者相互間でやりとりしていたが、今後は付箋をつけてやりとりすること。」といい、また従前は外務員相互間でこのような郵便物を直接授受していたのを改めて、外務員は誤区分郵便物を受取つたとき、区分を担当する内勤者を介して担当外務員にこれを交付するようにすべきであるとの趣旨で、「将来は付箋をつけず郵便課長の机の上か配達区分棚におくこと。」といい、さらに第二次特別考査対策として、「変なことをした郵政監察官の顔と名前とをよく覚えておけ」と告げ、「作業はあたりまえの能率ですること。」と発言したこと、この間課長および局長が再三、「やめて下さい。すぐ作業について下さい。」と発言して同原告を制止し外務員に就業を命じたのにもかかわらず、同原告は敢てこの命令に従わず、全逓組合員である外務員に対し前記のように別の作業方法をとつたり怠業したりすることを指示したことが認められる(同原告が「配達区分の誤区分郵便物は担当者相互間でやりとりしていたが、今後付箋をつけてやりとりすること。」「作業はあたりまえの能率ですること。」「変なことをした郵政監察官の顔と名前とをよく覚えておくこと。」と発言したことは争いがない。)〈証拠判断省略〉

7 一月一七日

〈証拠〉をあわせれば、原告豊丸は一一月一七日午後二時八分ころ当日の市内二度地一区の二号便中二四一通を残し二六九通を持つて郵便物配達に出発したが、右持出郵便物を完配できたにもかかわらず故意に配達業務を怠り、五四通を配達しただけで同三時二二分ころ帰局したこと、同原告は同四時五分までが勤務時間であり、うち同三時五二分から同四時五分までは賃金支払の対象たる拘束時間に含まれる休息時間であるのに、同三時五〇分ころ都城局内組合事務室の廊下にある窓ガラスの外側に全逓の他支部からの激励や応援の寄書を貼るなどの組合業務を行なつて勤務を怠つたことが認められる(同原告が当日市内二度地一区二号便の担務であること、多くの郵便物を持ち帰つたこと、同原告の勤務時間が午後四時五分までであることは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

8 一一月二二日

〈証拠〉をあわせれば、都城局の職員は始業時刻を告げるベルが鳴つてから出勤簿に押印し、室内を清掃し、朝礼に参加し、この席上で当局側から伝達事項があればこれを聞くのであるが、出勤簿押印に時間がかかり、時として組合から伝達事項につき質疑抗議が出され、朝礼が長びき作業開始がおくれるとの弊害を生じていたこと、課長は清掃朝礼をやめて勤務時間を効率的に利用し郵便物の滞留を減少させ職場規律を向上させる目的から、一一月二日午前八時九分ころ郵便課事務室で当日勤務の同課外務員約二五、六名(全逓組合員を含む。)に対して、「始業合図のベルが鳴る前に出勤簿に押印して下さい。ベルが鳴つたらすぐに作業をはじめて下さい。」と口頭で命令したところ、原告豊丸が全逓組合員である外務員に向つて、「課長のいうことは寝言だから聞く必要はない」と叫んで右命令不服従をそそのかしたことが認められる。〈証拠判断省略〉

(二)  原告隈元

1 一〇月三一日

前記二(一)5冒頭記載の証拠をあわせれば同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「課長が一〇月三一日午前八時三五分ころ郵便課事務室で樋口兼泰に対し担務の変更を命じたところ、原告隈元(週休日)は原告豊丸(週休日)、同松永(週休日)および当日勤務すべき同安楽、樋口、その他同課外務員(全逓組合員を含む。)とともに同課長に詰め寄り、課長の説明および局長と課長とからの就業命令を無視して同八時四二分までこもごも抗議をつづけ、その間課長の職務の遂行を妨げるとともに全逓組合員である右外務員をして勤務を欠くに至らせた。」というにある。〈証拠判断省略〉

2 一〇月三一日

〈証拠〉、前記二(二)1で認定した事実をあわせれば、熊本郵政監察局郵政監察官稗田政夫は第二次特別考査のため業務運行状況調査の目的で都城局に臨局中、一〇月三一日午前八時三七、八分ころ前記二(二)1の命令発出妨害状況を目撃し業務遂行上必要ありと認めてこれを写真に撮影し、なおいつでも写真を撮れるよう写真機を左手にもつて郵便課事務室課長席附近の外務主事席まで進み出て、課長の命令発出状況およびこれに対する外務員らの態度を観察していたこと、宮崎地区本部執行委員平岡昭二は局本部の指示により都北支部の前記闘争指導のため折柄都城局に入局中であつたが、稗田郵政監察官を目撃するや、原告隈元、同安楽らとともに同監察官をとりかこみ、「監察官は写真をとつたのか。」「こいつは前から気に食わん、お前は労働運動に介入するのか。」と大声で叫び同人を机に押しつける等して一、二分間同人の前記職務を妨害したことを認めるに足りる(平岡が抗議したことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

3 一一月一〇日

〈証拠〉をあわせれば、局長は一〇月三一日郵便課外務員に対し、「配達出発に当り持出不能と考えられる郵便物があるときは、郵便課長、同代理、又は主事の指示を受けること。」という業務命令を発しておいたのに、原告隈元は一一月一〇日午前九時三五分ころ右命令あることを了知しながら、これに反し上司の指示を受けることなく、自ら持出不能と判断した郵便物一二一通を同局に置いたまま市内二度地五区の一号便の配達に出発したことを認めるに足りる(同原告が市内度地五区の担当であつて郵便物若干を残して配達に出発したことは争いがない。)〈証拠判断省略〉

4 一一月一三日

〈証拠〉、前記一(三)23において認定した事実をあわせれば、次の事実が認められる。

「都城局においては前記のように局長が各職員について四週間を単位としてその期間内における勤務の指定および担務の指定を行ない、これを当該期間の開始日の一週間前までに関係職員に周知するものとするとの慣行が存した。しかし局長は一〇月一九日の破棄通告により右のうち担務指定を四週間分まとめて行ない、これを一週間前までに周知するとの慣行にもはや拘束されないとの立場をとり、一〇月二三日新服務表を作成し一一月三日からこれを実施するとともに従前通り四週間分まとめて勤務の指定をしたけれども、同日から担務の指定についての従前の慣行によらず前日中に翌日の担務を指定する方法に改めた。

課長は一一月一三日午前八時五分ころ作業開始に先だち田原郵便課外務主事に対し、『今日は何も命令事項がないからすぐ作業につくよう外務員に命令しなさい』と命令し、同主事は同課外務員二五、六名に対し同旨の命令をした。

原告隈元は自己の担務を『集めの一』を指定されており、このような担務の指定方法になつてすでに一〇日を経過している関係上『集めの一』の作業内容を熟知しているにもかかわらず、この労働慣行変更に対して抗議をする目的をもつて、課長に対し、『集めの一とは何か』と詰問し、課長から『集めの一とは速達一号便を配達したあと、取り集めの一号便をすることで今迄と何ら変りありません。すぐ作業について下さい。』との説明および命令を受けた。

これに対し原告安楽、同松永らも同様『集めの一』の作業内容を熟知しているのに、『仕事はどこで何をするのか、何時から何をするのか。例えば取り集めを何時までに、速達を何時までにするのか判らんではないか』と抗議し、原告隈元も、『そんなものはどこにあるのか。』といい、課長から、『結果表を見れば判るではないか』と説明を受けても、原告松永は、『担務の指定中に明示されていないから判らない。これがはつきりするまで仕事ができないではないか』と反論した。

右原告ら三名は課長から、『もう仕事についている人もいるではないか。全員作業について下さい。』との命令を受けても課長と押問答をくりかえし、他の外務員とともに同八時二二分まで右命令に従わず勤務を欠いた。」(右原告三名が他の外務員とともに課長に対し担務の指定につき抗議しこの間就労しなかつたことは争いがない。)〈証拠判断省略〉

5 一一月一九日

原告隈元が一一月一九日朝当日配達すべき速達一号便の速達通常郵便物五四通、書留速達通常郵便物八通のうち後者を残して前者だけをもつて配達に出発し、うち二五通を配達しただけで残り二九通を配達せず午前八時三〇分ころ持帰つたことは争いがない。

〈証拠〉をあわせれば、原告隈元は課長に対し、右二九通は名宛人戸締り不在のため配達できなかつたと報告したので、郵政監察官井上弘および都城局庶務会計課長代理北郷等らは即日命により原告隈元の持ち帰つた郵便物二九通の名宛人について配達可能であつたか否かを調査したところ、宛所不明二件、同原告が配達に出発した午前七時三〇分から帰局した同八時三〇分までの間郵便受箱もなく、戸締不在のもの二件、郵便受箱があつたり、右時間中すでに玄関の鍵が外され、又は起床していたもの二五件あることが判明したこと、従つて同原告は、都城局郵便外務員一四年の職歴と一か月間に平均六回速達配達の経験とを有する関係上、所定時間内に右二五通をも配達できるにかかわらずこれを怠り早目に配達を切り上げて午前八時三〇分ころ帰局したものであることが認められる。〈証拠判断省略〉

6 一一月一九日

〈証拠〉によれば、原告隈元は一一月一九日午前八時三〇分すぎころ課長から、右のようにして持ち戻つた郵便物について持戻り事由を付箋するよう命令されたにもかかわらず、これを無視して持戻り郵便物二九通中一通に「戸口締切り」という付箋をつけ、その他には付箋をつけずそのまま速達かばんにいれて速達道順組立台上に放置したことが認められる(持戻り郵便物二九通のうち一通だけ付箋をつけ、その余にはこれをつけなかつたことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

7 一一月二四日

〈証拠〉をあわせれば、原告隈元は、局長から前記二(二)3記載のように、「配達出発に当り持出し不能と考えられる郵便物があるときは郵便課長、同代理、又は主事の指示を受けること。」という業務命令を受けていたにもかかわらず、一一月二四日午前一〇時五分ころ右上司の指示を受けず普通郵便物八〇通を道順組立台に残したまま市内二度地五区の配達に出発しようとしたところ、郵便課主事植村実則から自動車発着口付近において、右郵便物をも持つて行くよう命ぜられ、これが実行可能でありながら、同主事に対し、「かばんにも郵袋にもはいらん。」といつて右命令を拒否してそのまま配達に出発したことが認められる(同原告が当日市内二度地五区の担当であつて、持出し不能郵便物につき上司の指示を受けることなく郵便物若干を残したまま配送に出発したこと、植村主事から言われたことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

8 一一月二九日

〈証拠〉をあわせれば、次の事実が認められる。

「都城局において都北支部等が集会のため同局庁舎を使用する場合郵政省就業規則により局長の許可を要し、従前は業務に支障のない限り許可を得てきた。しかし、前記指令第一〇号が発出され一一月一九日から三六協定の締結が拒否される等のいわゆる闘争期間にはいつた関係上、局長はこの期間中支部等の集会のため右庁舎を使用させない方針を打ち出した。

全逓郵便課分会は一一月二九日午後四時三〇分ころから同課外務員休憩室において局長の許可を受けないで右室を使用し原告隈元司会のもとに原告安楽、同松永ら分会員約三〇名の参集を得て職場集会を開催した。この集会開会中の同四時三七分ころから同五時一六分ころまでの間局長は口頭で四回、課長は文書で一回、口頭で五回、『庁舎の使用を許可できないから解散して下さい』との解散命令を発した。これに対し、原告松永は、同局長に向け、『もう五〇回位いわないと聞えないぞ。』『うるさいぞ』『出て行け。』と怒鳴り、原告安楽は都北支部長であつたが、右文書による命令の受領を拒み、原告隈元は原告安楽、同松永およびその他の参会者とともに同五時一七分ころまで右集会を続行して右命令に従わなかつた。

原告安楽は右集会終了後、『丁度よいところに郵便課長がいる。今から課長に集団交渉をしようではないか。出勤簿の押印のこともある。』と叫んで原告隈元、同松永および参会者約三〇名とともに課長をとりかこみ一時課長を同休憩室に閉ぢこめ、さらに逃れる課長を追つてともに課長席、局長室前に至り、そこにいた川畑郵政監察官の制止をきかず局長室に侵入した。局長は同五時二五分から四回にわたり口頭で、『皆さんこれから会議を開きますので、局長室から出て下さい。』との退去命令を発した。しかし右原告ら三名およびその他若干名は『出勤簿のことで話し合いに応じてくれ。』と称して同五時四〇分すぎまで局長室に滞留し、もつてその間局長の職務を妨害した。」

(以上のうち当日原告隈元が司会して庁舎使用の許可を受けずに右休憩室において職場集会を開き、原告安楽、同松永のほか分会会員約三〇名が参加したこと、解散命令が発せられ原告ら三名が抗議したことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

(三)  原告安楽

1 一〇月三一日

前記二(一)5冒頭記載の証拠をあわせれば、同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の真実は争いがない。)。その要旨は、「課長が一〇月三一日午前八時三五分ころ郵便課事務室で樋口兼泰に対し担務の変更を命じたところ、原告安楽は原告豊丸、同隈元、同松永(この三名はいずれも週休日)および当日勤務すべき樋口ならびに同課外務員ら(全逓組合員を含む。)とともに課長に詰め寄り、課長の説明および局長と課長とからの就業命令を無視して同八時四二分までこもごも抗議をつづけ、その間課長の職務を妨げるとともに全逓組合員である同課外務員をして勤務を欠くに至らせた。」というにある。〈証拠判断省略〉

2 一〇月三一日

前記二(二)2冒頭記載の証拠をあわせれば、前記載の事実を認めることができる。(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「郵政監察官稗田政夫が一〇月三一日午前八時三七、八分ころ都城局郵便課事務室において、課長の命令発出状況およびこれに対する外務員らの態度を観察し写真撮影を終えたところ、原告安楽は同隈元とともに同監察官をとりかこみ同人を非難し机に押しつける等して一、二分間同人の前記職務を妨害した。」というにある。〈証拠判断省略〉

3 一一月一三日

前記二(二)4冒頭記載の証拠をあわせれば同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「都城局において担務の指定の方式が一一月三日から変更されたのち、課長が一一月一三日午前八時五分ころ田原主事をして就業命令を発せしめたのに対し、原告安楽は原告隈元、同松永および同課外務員二五、六名とともにこれに従わず、自己の作業内容を熟知しているのに課長に、『仕事はどこで何をするのか。何時から何をするのか。例えば取り集めを何時までに、速達を何時までにするのか判らんではないか。』と抗議をつづけ、課長から再度就業を命じられても押問答をくりかえして同八時二二分まで右命令に従わず勤務を欠いた。」というにある。〈証拠判断省略〉

4 一一月二四日

前記二(二)8で認定したとおり、都城局において都北支部等が集会のため同局庁舎を使用する場合郵政省就業規則により局長の許可を要し、従前は業務に支障のない限り許可を得てきた。しかし前記指令第一〇号が発出され一一月一九日から三六協定の締結が拒否される等のいわゆる闘争期間にはいつた関係上、局長はこの期間中支部等の集会のため右庁舎を使用させない方針を打ち出したのである。

〈証拠〉を合わせれば、原告安楽は一一月二四日午後五時一〇分ころから同局会議室において右室の使用許可願を提出することなく、都北支部の組合員約六〇名の参集を得てその職場大会を開催したこと、同原告は局長から二回、落合奈良春同局庶務会計課長から一回いずれも口頭で「局長から責任者に命令します。闘争期間中職場大会のための会場の使用は認めません。直ちに解散して下さい。」との命令を受けながら、これを無視して同六時三八分まで同会議室を無断使用したことが認められる(当日右のような職場大会が開催され解散命令が発せられたことは争いがない。)。

5 一一月二九日

前記二(二)8冒頭記載の証拠をあわせれば、同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「都城局において、都北支部等が集会のため同局庁舎を使用する場合局長の許可を要し、従前は業務に支障のない限り許可を得てきたものであるが、局長はこの方針を変更した。しかし分会は一一月二九日午後四時三〇分ころから同課外務員休憩室において局長の許可を受けないで右室を使用し、原告隈元司会のもとに原告安楽、同松永ら分会員約三〇名の参集を得て職場集会を開催した。局長および課長は再三、『庁舎の使用を許可できないから解散して下さい。』との解散命令を発したけれども、原告安楽は都北支部長であつたが同文書による命令の受領を拒み、原告隈元、同松永およびその他の参加者とともに同五時一七分ころまで右集会を続行して右命令に従わなかつた。しかも右原告らは右集会終了後課長を追つて集団交渉を要求し局長室に侵入し、局長から四回退去命令を受けてもこれを無視して同五時四〇分すぎまで局長室に滞留してその職務を妨害した。」というにある。〈証拠判断省略〉

(四)  原告松永

1 一〇月三一日

前記二(一)5冒頭記載の証拠をあわせれば、同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「課長が一〇月三一日午前八時三五分ころ郵便課事務室で樋口兼泰に対し担務の変更を命じたところ、原告松永(週休日)は樋口、原告豊丸(週休日、同隈元(週休日)、同安楽および同課外務員ら(全逓組合員を含む。)とともに課長に詰め寄り、課長の説明おび局長と課長とからの就業命令を無視して同八時四二分までこもごも抗議をつづけ、その間課長の職務を妨げるとともに全逓組合員である同課外務員をして勤務を欠くに至らせた。」というにある。〈証拠判断省略〉

2 一一月一三日

前記二(二)4冒頭記載の証拠をあわせれば同記載の事実を認めることができる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「都城局において担務の指定の方式が一一月三日から変更されたのち、課長が一一月一三日午前八時五分ころ田原主事をして就業命令を発せしめたのに対し、原告松永は原告隈元、同安楽および同課外務員二五、六名とともにこれに従わず、自己の作業内容を熟知しているにもかかわらず、課長に、『仕事はどこで何をするのか。何時から何をするのか。例えば取り集めを何時までに、速達を何時までにするのか判らんではないか。』『担務の指定中に明示されていないから判らない。これがはつきりするまで仕事ができないではないか。』と抗議をつづけ課長から再度就業を命じられても押問答をくりかえして同八時二二分まで右命令に従わず勤務を欠いた。」というにある。〈証拠判断省略〉

3 一一月一八日

〈証拠〉によれば、都北支部は一一月一八日午後〇時三五分ころから同一時一八分ころまでの間都城局会議室において、前記指令第一〇号にもとづき職場大会を開催したところ、原告松永は当日午前一〇時三〇分から午後六時三〇分まで勤務時間であり、午後一時から同一時一五分までは賃金支払の対象となる拘束時間に含まれる休息時間であつて、勤務から離れ得るのは同一時一五分から同二時までの休憩時間であるのに、これに先立ち同〇時三五分からこの職場大会に終始参加したことが認められる(同原告が右職場大会に出席したことは争いがない。)。〈証拠判断省略〉

4 一一月二四日

前記二(三)4冒頭記載の事実および証拠によれば、都北支部は一一月二四日午後五時一〇分ころから都城局会議室において、郵政省就業規則の定めるところに従わず局長の新方針に反して右室の使用許可願を提出することなく、都北支部の組合員約六〇名の参集を得てその職場大会を開催したことが認められる(同末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。

〈証拠〉をあわせれば、原告松永は、同日の勤務時間が午前一〇時三〇分から午後六時三五分までであり、そのうち賃金支払の対象となつている拘束時間に含まれる休息時間は午後六時二〇分から同三五分までであるのに、同六時二〇分ころ当日の職務を終了すると直ちに右職場大会に参加しようとしたところ、課長から、「勤務時間中であるから仕事に就くように」との就業命令を受けながらこれを拒み、同二八分ころ右大会に参加したことが認められる(原告松永の当日の勤務時間および休息時間は同原告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。)。

5 一一月二九日

前記二(二)8冒頭記載の証拠をあわせれば、同記載の事実を認めることができる(末尾かつこ内記載の事実は争いがない。)。その要旨は、「都城局において、都北支部等が集会のため同局庁舎を使用する場合局長の許可を要し、従前は業務に支障のない限り許可を得てきたものであるが、局長はこの方針を変更した。しかし分会は一一月二九日午後四時三〇分ころから同課外務員休憩室において局長の許可を受けないで右室を使用し原告隈元司会のもとに原告安楽、同松永ら分会員約三〇名の参集を得て職場集会を開催した。局長および課長は再三、『庁舎の使用を許可できないから解散して下さい。』との解散命令を発したけれども、原告松永は『もう五〇回位いわないと聞えないぞ』等と怒鳴り、原告隈元、同安楽およびその他の参加者とともに同五時一七分ころまで右集会を続行して右命令に従わなかつた。しかも右原告らは右集会終了後課長を追つて集団交渉を要求し局長室に侵入し、局長から四回退去命令を受けてもこれを無視して同五時四〇分すぎまで局長室に滞留してその職務を妨害した。」というにある。〈証拠判断省略〉

第三法令の適用

一原告らの行為の要約

法令の適用に先立ち以上の認定事実を要約すれば、原告らは公労法二条一項二号イ所定の郵便事業を行なう国の経営する企業に勤務する一般職の国家公務員であるが、その加入する全逓の中央本部および都北支部の郵政当局に対する前記団体交渉事項に関する要求貫徹のため、右中央本部の指令に従い、九州地方本部、宮崎地区本部、都北支部の各指導のもとに、局長、課長の職務を妨げ、その業務命令に従わず、勤務を怠り、都城局庁舎使用の許可を受けずに同局庁舎内で都北支部の職場大会等を開催し、退去命令に従わない等の所為に及んだものである。

右行為はその態様に徴し、すべて、使用者である国に対する関係で郵便事業の業務の正常を運営を阻害したものと認められる。以下争議行為と懲戒制度との関係につき検討しなければならない。

二郵政職員の争議権

原告らのような郵政職員が結成し又は加入する労働組合(以下組合という。)は、公労法の適用を受けない一般職の国家公務員が結成し又は加入する職員団体と異なり、管理運営事項を除き、公労法八条所定の賃金その他の給与、労働時間、休息、休日および休暇に関する事項等につき、団体交渉を行ない、労働協約を締結することができる(以下団体交渉権、協約締結権を有するという。)。そしてこの組合は、憲法二八条、公労法三条、労組法七条一号、労働関係調整法(以下労調法という。)七条、八条等の一般原則によれば、右のような団体交渉における主張を貫徹することを目的として、同盟罷業、怠業、その他業務の正常な運営を阻害する一切の行為(以下争議行為という。)におよぶことができ、その場合それが使用者である国の財産権等企業経営上の諸法益との調和を破らない範囲すなわち労組法七条一号にいう正当性を具備する限り、組合およびその組合員は争議行為をしたとの故をもつて不利益な取扱いを受けない筋合である。

三郵政職員に対する争議行為禁止の趣旨および効果

公労法一七条が郵政職員および組合等に対し争議行為を禁止している理由は、郵便業務が独占的であり(郵便法五条)、国民生活全体の利益ときわめて密接に関連し、その争議行為による停滞が国民生活に重大な障害をもたらし、社会公共にきわめて大きな影響を与えるので、これを防止することにあると解される。この限度で争議行為は禁止されたのであつて、この禁止によつて保護される法益は国民生活全体の利益である。

公労法一七条と同旨の規定は他にも存在する。すなわち労調法八条が郵便事業を公益事業に指定し、同法三五条の二、三八条が公益事業につき内閣総理大臣の緊急調整の決定によつて争議行為を一定期間禁止し、同法三七条が公益事業につき関係当事者に対し労働委員会等あて争議行為を予告する義務を課し、予告期間中の争議行為を禁止しているのは、いずれも国民生活全体の利益を保護するためである。

よつてこれらの規定は、使用者の財産権等その運営上の諸法益を保護する目的をもつものではなく、従つて前記第三の二で述べた一般原則を変更するものでもない。

争議行為が禁止される結果として、争議行為をした郵政職員は公労法一八条により解雇される建前である。この措置は国民生活全体の利益を保護するため、国公法七五条による身分保障の例外として、公労法によりとくに使用者たる国に与えられた権限にもとづくものであり、損害賠償(公労法三条、労組法八条)および刑罰(郵便法七九条)とならんで公労法一七条を実効あらしめるのである。

四郵政職員の争議行為と懲戒制度

(一)  法理的考察

1 懲戒制度の目的

国公法所定の懲戒制度の目的は使用者としての国が、その任命する一般職の国家公務員に対して有する指揮命令権にもとづき、職場秩序を維持するため、その違法行為その他の非行中国公法八二条所定のものをとりあげ、当該国家公務員に対し免職を含む不利益取扱いをするにある。従つてこれによつて保護される法益は使用者としての国の有する指揮命令の確保、職場秩序の維持に外ならない。

もつとも同条三号は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」にも懲戒処分を行なうことができると定めている。しかしこの規定をもつて職場秩序の確保という使用者である国の利益保護の目的ばかりでなく、国民生活全体の利益の保護の目的にも奉仕すると解すべきではない。すなわち国家公務員は国民全体の奉任者として公共の利益のために勤務すべき者である(国公法九六条一項)から、そのような職務を帯びる者にふさわしくない非行に及べば、国民の信頼を失いひいては使用者である国による公務の運営にも支障を来すのであつて、右規定はこのような非行をした者を懲戒処分に付することにより使用者である国の利益を保護することを目的としたものである。従つて右規定は前記解釈を左右しない。

2 争議行為と懲戒制度

(1) ある行為がある法令上違法とされたからといつて、その違法性が必ずしもすべての法域に及ぶものではなく、その行為を違法とする法令の目的にかんがみてその保護しようとする法益等との関係においてのみ相対的にこれが及ぶにすぎない。このような見地から公労法一七条を見ると、同条が争議行為を禁止したからといつて、これに違反する争議行為がすべての面で直ちに違法と評価されるものではない。すなわち同条が国民生活全体の利益を保護するといういわば企業外の要請を目的とするものである以上、同条違反の争議行為はこの見地から違法とされ、違反者に対し同法一八条の不利益が与えられるのである。その不利益は右目的にかんがみ、懲戒処分の性質を有するとはいえない。そして、右争議行為がいわば企業内において使用者である国に対する関係でも、直ちに違法とされ、国の指揮命令に反し、職場秩序をみだす行為として、国公法八二条所定の懲戒制度の対象となるとは断定できない。この際、顧みられるべきことは、国民生活全体の利益を保護する目的をもつてする争議行為の禁止とその違反者に対して課せられる不利益とを合理性の認められる必要最少限度のものにとどめることが、労働基本権を保障した憲法二八条の精神に外ならないことである。

このことは、労働法三七条違反の争議行為につき、使用者がそのことを理由として参加者を懲戒できるかという問題と共通の本質を有する。すなわち、同条所定の公益事業の争議行為予告義務は、国民生活全体の利益を保護する責務を負つている国に対する義務であるから、これに違反して予告がなされず、又は予告期間満了前に争議行為がなされた場合には、その違反行為について責任のある者もしくは団体は、国民生活全体の利益に悪影響を及ぼしたことを理由として国に対する関係では同法三九条の罰則を適用され得ることは勿論であるが、さればとて、右行為が直ちに使用者に対する関係でも違法となるものでなく、そのためには使用者との間に争議行為の予告義務を定める労働協約等を必要とするのである。

(2) ここに留意すべきは、国公法九六条一項が、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定め、同法九八条一項が、「職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と定め、同法九九条が「職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定め、同法一〇一条一項一段が「職員は、法律又は命令の定める場合を除いては、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」と定めていること、および使用者である国が、郵便法一条二条により、郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによつて、公共の福祉を増進するとの責務を負うと解されることである。

そこで郵便事業における争議行為は、使用者である国の措置命令を排除することによつて国公法の右法条に違反するのではないか、ひいては右争議行為は使用者である国の公共の福祉増進という企業の責務の遂行を阻害し、公共の福祉すなわち国民全体の利益に反し、公労法一七条の精神から推せば、使用者である国に対する関係でも違法とされるのではないかとの疑いを生ずる。よつて以下この点につき検討する。

国公法九六条一項、九九条は同法制定時(昭和二二年一〇月)から改正を見ず、同法九八条一項、一〇一条一項一段は同法制定時の法文と若干異なるもののその趣旨を同じくする。後に第三の四(二)で説明するように同法制定時において郵政職員の争議行為は全面的に禁止されることなく、むしろ旧労組法一一条一項にいう正当性を具備する限り使用者である国に対する関係で違法とされなかつたから、国公法の右各規定は少なくとも当時において右のような正当性を具備する争議行為をも禁止し、ひいてこれを懲戒の対象とする趣旨であつたとは解されない。その後第三の四(二)で説明するように郵政職員に対し公労法一七条が適用されるに至つたからといつて、同条の立法趣旨が国民生活全体の利益保護の見地に立脚するものにすぎない以上、使用者である国と郵政職員との間の労働関係を規律する国公法の右各規定がその趣旨を変えたとは断定できない。

また国公法九八条一項にいう法令中に公労法一七条を含むとしても、これが国民生活全体の利益を保護することを目的とする規定である以上、争議行為に対する同条違反を理由とする不利益取扱いは、同一の目的をもつ同法一八条の解雇等に尽き、使用者である国の指揮命令等確保を目的とする国公法八二条所定の懲戒処分を含まないと解される。争議行為に対する懲戒処分は、前記第三の二で述べた一般原則に従い右争議行為が労組法七条一号にいう正当性を欠く場合にのみ許容され得るのである。

ここにおいて、郵便事業の前記責務を媒介として、公労法一七条違反行為に対し、その労組法七条一号にいう正当性の有無を問わず、懲戒処分をもつて臨むことができるか否かを検討する。郵便事業は国民生活全体の利益ときわめて密接に関連するので、利用者に対し前記のような責務を負うのであるが、これは労働法八条所定の公益事業と同様、いわば企業自体の目的にすぎず、従つて、公労法一七条が存在するといつても、この責務が、郵政職員の争議行為を使用者である国に対する関係でも違法とすることによりその指揮命令権を確保し職場秩序を維持することを要請するものとまでは解されない。すなわち労調法八条所定の公益事業、例えば郵便物運送業等が国営郵便事業と同じく国民生活全体の利益ときわめて密接に関連し、公共の福祉増進を企業の責務としており、これと併せて右公益事業につき労働法上前記のように争議行為が禁止されていても、この郵便物運送業に雇傭される労働者の右禁止に違反する争議行為が、それだけで直ちに使用者に対する関係でも違法と評価されるのではなく、前記第三の二で述べた原則に従い労組法七条一号にいわゆる正当性を欠く場合にのみ使用者に対する関係で違法とされ、その行為者は懲戒処分の対象となり得るのである。このように郵便物運送業との対比からみても、国営郵便事業のもつ前記責務が、争議行為を使用者に対する関係においても違法とすることにより、指揮命令権を確保し職場秩序を維持しなければならないとの結論を必ずしも導くものでないことは明らかである。

(3) 以上説明したとおり郵政職員の争議行為が、その目的および態様に徴し、労組法七条一号所定の正当性を具備する限り、これが公労法一七条に違反する場合でも、行為者に対し国公法八二条所定の懲戒処分をすることはできない。換言すればこのような争議行為は、前記のように使用者の利益保護を目的とする国公法八二条の構成要件に該当しないのである。

このことは公労法三条が、郵政職員に関する労働関係につき、労組法の定めるところによると規定し、かつ、わざわざ同法八条の適用を除外しながら、同法七条一号本文の適用を除外していないことからも窺われる。なお公労法一七条違反の争議行為をすべての法域わたり違法と解し、労組法七条一号にいう正当性をも有しないとの見解を採用できないことは以上の説明から明らかである。

(二)  沿革的考察

右のような結論は、郵政職員に対する争議行為禁止に関する立法の沿革とも矛盾するところはない。以下これを説明する。

1 憲法施行時(昭和二二年五月)

郵政職員(当時は逓信省の職員であつた。)は、憲法二八条旧労組法(昭和二〇年法律五一号)一条、三条、四条、一〇条、一二条により労働組合を結成し又はこれに加入することができ、この労働組合は団体交渉権、協約締結権および争議権を有した。また昭和二一年九月二七日に制定された同年法律二五号労調法のもとにおいても、同法三八条(昭和二一年法律二五号による原条文、その内容は、「警察官吏、消防職員、監獄において勤務する者その他国又は公共団体の現業以外の行政又は司法の事務に従事する官吏その他の者は争議行為をなすことはできない。」というにある。)および同法三九条(三八条違反行為に対する罰則)が存在したが、厚生省労政局長の発した「労働関係調整法第三八条の適用範囲の確定基準」も示すとおり、郵政職員につき右法条が適用されないと解された結果、郵政職員は争議行為をすることができ、使用者たる国は旧労組法一一条(昭和二二年法律二五号による改正後の規定)により正当な争議行為をしたとの故をもつて労働者に対し解雇等の不利益取扱いをすることを禁じられ、ただ労調法四〇条(昭和二一年法律二五号による原条文)により労働委員会の同意を得たときは労働者が争議行為をしたことを理由として解雇その他の不利益取扱いをすることができた(この部分は昭和二四年法律一七五号により削除された。)。

2 国公法施行時(昭和二三年七月)

国公法(昭和二二年法律一二〇号)が制定され、その二条三項一二号により、郵政職員はいわゆる現業庁の職員として特別職とされ同法の適用を除外されていた。同法は八二条において懲戒に関する規定をおいたが、争議行為を禁止する規定をおかなかつた(同法九八条参照)。

3 政令二〇一号施行時(昭和二三年七月)

昭和二三年七月二二日附内閣総理大臣宛連合国最高司令官書簡に基づく臨時措措置に関する政令(同年政令二〇一号)一条は、「任命によると雇傭によるとを問わず国又は地方公共団体の職員の地位にある者は、国又は地方公共団体に対しては、同盟罷業、怠業的行為等の脅威を裏付けとする拘束的性質を帯びた、いわゆる団体交渉権を有しない。但し、公務員又はその団体は、この政令の制限内において、個別的に又は団体的にその代表を通じて、苦情、意見、希望又は不満を表明し、且つ、これについて十分な話合をなし、証拠を提出することができるという意味において、国又は地方公共団体の当局と交渉する目的を否認されるものではない」と定めて、組合が旧労組法によつて有する団体交渉権を制限し、協約締結権を否定した。さらに同政令二条は、「公務員は、何人といえども、同盟罷業又は怠業的行為をなし、その他国又は地方公共団体の業務の運営能率を阻害する争議手段をとつてはならない。公務員でありながら前項の規定に違反する行為をした者は、国又は地方公共団体に対し、その保有する任命又は雇傭上の権利をもつて対抗することができない。」と定め、同政令三条は二条一項の規定に違反した者に対する罰則を定めて、争議行為の禁止と違反者に与える不利益とを明らかにした。

ここに注目すべきは争議行為をした者に対し、任命又は雇傭上の権利の喪失という不利益を与えることとした点である。そのため、郵政職員は右政令施行前、目的態様において正当な争議行為をした場合、そのことの故に分限免職、懲戒処分等の不利益取扱いを受けなかつたにもかかわらず、その施行後は任命又は雇傭上の権利をもつて国に対抗できなくなつたのである。

4 国公法の第一次改正法律施行時(昭和二三年一二月)

国公法の一部を改正する法律(昭和二三年法律二二二号)による改正後の国公法二条は、郵政職員を一般職の国家公務員に編入して同法の適用を受けさせた。同じく同法九八条二項は、一般職の国家公務員に対し、職員の団体を結成し、これに加入する等の自由を保障し、この団体が勤務条件に関し、およびその他社交的厚生的活動を含む適法な目的のため、当局と交渉することを認めたが、右政令を踏襲してこの団体に対し協約締結権を与えなかつた。同じく同条五項は、一般職の国家公務員は政府が代表する使用者としての公衆に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をなし、又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならず、何人も、このような違法な行為を企て、又はその遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならないと定めた。同じく同条六項は、一般職の国家公務員で同盟罷業その他前項の規定に違反する行為をした者は、その行為の開始とともに、国に対し、法令に基づいて保有する任命又は雇用上の権利をもつて、対抗することができないと定め、同じく同法一一〇条一項一七号は九八条五項違反者の一部に対する罰則を定めた。さらに国公法附則一六条の追加により、労組法、労調法等は一般職の国家公務員に適用されなくなつた。

これを要するに右政令のとつた団体交渉権を制限し、協約締結権を否定し、争議行為を禁止し、違反者に対し任命又は雇傭上の権利の喪失という不利益を与える立場は改正国公法に引きつがれたというべきである。そして同法九八条五項が「政府が代表する使用者としての公衆」に対する争議行為を禁止したことは、この禁止の趣旨が国民生活全体の利益の保護にあることを示したものである。

5 公労法適用時(昭和二七年一二月)

公労法(昭和二三年法律二五七号)は当初日本国有鉄道、日本専売公社およびその職員のみを対象としたが、労調法等の一部を改正する法律(昭和二七年法律二八八号)は、国の経営する郵便事業および郵政職員にも公労法を適用することとした。

この結果、郵政職員は公労法三条四条により公労法と労組法との適用を受ける労働組合を結成し又はこれに加入でき、現に存する職員の団体は労調法等の一部を改正する法律附則一六項等により公労法と労組法との適用を受ける労働組合となるものとされ、郵政職員を代表する交渉委員は、公労法八条ないし一五条により交渉単位ごとに使用者である国に対し、公労法適用以前と異り、賃金その他の給与労働条件につき団体交渉権と協約締結権とを有するに至つた。ただ管理運営事項の除外、国会の承認、公共企業体等労働委員会の職権等にもとづく仲裁等の制約(同法八条、一六条、三三条、三五条)を受けた。そして同一七条は争議行為を禁止し、同法一八条はその違反者に対し解雇という不利益を与える旨定めたが、その趣旨は国民生活全体の利益の保護にあることは前述した。

なお同法四〇条一項一号により郵政職員に対する懲戒は国公法によるものとされた。

つぎに公労法の一部を改正する法律(昭和三一年法律一〇八号)は郵政職員を代表する交渉委員と交渉単位制度とを廃止して現行のとおり労働組合自身が団体交渉権と協約締結権とを有するものとした。

6 総括

以上のような立法の沿革によれば、労働組合は右政令制定後の数年間を除き、その範囲で変遷はあるにしても労働条件等につき使用者である国に対し終始団体交渉権と協約締結権とを有し、かつ右政令履行前は右権利の裏付けとして使用者である国に対し争議行為を行なうことができたが、右政令施行後は終始国民生活全体の利益保護の見地から争議行為を禁止され、違反者に対して任命又は雇傭上の権利の喪失又は解雇という不利益が科せられたに至つたのである。ここで留意すべきは、右の禁止および不利益取扱いの立法が単に国民生活全体の利益保護という見地のみから出たとはいえるが、指揮命令権の確保と職場秩序の維持という目的から出たものとは断定し難いことである。

五原告らの行為に対する評価

前記第二で認定した原告らの行為は、いずれも、全逓中央本部および都北支部の郵政当局に対する公労法八条所定の範囲内における前記団体交渉事項に関する要求貫徹のため、右中央本部の指令に従い九州地方本部、宮崎地区本部、都北支部の指導のもとに行なわれた争議行為に外ならない。

その目的が労組法七条一号所定の正当性を具備することは多言を要しない。

その態様を見ると、原告豊丸の前記第二の二(一)2、6(ただし同原告自身の労務不提供部分に限る。)、7、原告隈元の前記第二の二(二)3ないし7、原告安楽の前記第二の二(三)3、原告松永の前記第二の二(四)2ないし4の各行為はいずれも労務提供義務の単なる不履行にすぎず、また、原告豊丸の前記第二の二(一)5、6、原告隈元の前記第二の二(二)1、原告安楽の前記第二の二(三)1、原告松永の前記第二の二(四)1のうちそれぞれ全逓の組合員である外務員らに対する労務不提供をあおつた行為と原告豊丸の前記第二の二(一)8の行為とは労務提供義務不履行の教唆にすぎず、これらはいずれも前記労組法七条一号所定の正当性を具備するというべきである。

従つて原告らの右各行為は目的および態様において正当な争議行為といえるから、国公法八二条所定の懲戒処分の構成要件に該当しない。

原告らの行為が公労法一七条によつて禁止された争議行為にあたるか否かを判定する必要をみないことは前述したところから明らかである。

六結語

本件処分において法律の適用および処分の規定は、争議行為と懲戒制度との関係につき以上説明したところとは異なる見地に立つてなされたものであり、しかも懲戒処分理由となつた事実のうちには懲戒処分の構成要件に該当しないものをも若干含んでいる。従つて原告らのその余の争議行為中に労組法七条一号にいう正当性を欠きしかも国公法八二条所定の懲戒処分の構成要件に該当するものがあるとしても、前記のような懲戒処分の構成要件に該当しない行為が存在する以上、原告らに対する懲戒処分の要否および処分の種類程度の規定についての被告らの判断に影響がないとは到底いえない。よつて改めて被告らをして原告らに対し懲戒処分を行なうか否か及び行なうとしてその種類程度を決定させなければならない。本件処分はその余の点につき判断するまでもなく取消しを免れない。

以上の理由により原告らの請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(沖野威 小笠原昭夫 石井健吾)

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